注意散漫な世界の領域



部屋で小グモを見つけて その動きに見とれ 食料を探してるんだろうなんて考えていると うつらうつらとし 不意に小グモが消えたようで 視界の片隅で見えているようでもあって 部屋と小グモが一体化したような むしろ小グモに囲まれているような気分になることがあって 小グモと部屋の領域があいまいな時間の点滅の中で 注意散漫な世界が ひとつの自律的な存在としてせまってくることがある

フォトスキャンデータは、ある時間※1の微持続における視線の集合で、そのデータにいつもできてしまう小さな穴は、その時間に点滅していた注意散漫な世界のありかをマーキングしている

スキャンした空間の表面からその穴のまわりだけ取り出し 元の空間に戻してみる かつてそこにあった時間の注意散漫な世界の抜け殻 今まさにどこかに抜け出して※2しまった注意散漫な世界

それはどこにあるのだろう※3

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※1
2016年9月13日16時20分 ― 17時14分の間、断続的に捉えた1275枚の写真によるフォトスキャンをとおし、54分間にわたる時間を圧縮した色彩・座標情報をもつ点群を得る。眼差しの集積は、それが抜け落ちていた領域=視線の不在のありかを逆照射していたことに気づく。

※2
はっきりとした像を結ぶ「図」に対し、所在だけがぼんやりと意識されている「地」としての注意散漫な世界はどこでいつはじまっておわっているのかわからない。不特定の幾つもの時間の束のあいだをぬるぬると滑り抜け、その境界は常に融けている。

※3
注意散漫な世界の所在が不明である為、複数時間の視線不在のマーキングを、展示期間をとおして繰り返す。決してつかまえられない注意散漫な世界のまわりの回転運動。

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‘注意散漫な世界の領域’ 「Malformed Objects」(キュレーション:上妻世海), 山本現代, 東京, Jan 21 – Feb 25, 2017 © 木内俊克