中野駅北口、正面の中野ブロードウェイに至るサンモール商店街、その1本隣りを平行して南北に走る飲食店街を東に抜けると、新旧入り混じる閑静な住宅街に至る。入り組んだ路地、親密なスケール感、病院や保育園が生み出す余白と緑。駅から徒歩6分ほど歩いた多様な表情が溢れる町並みの角地に、オブジェクトディスコの敷地は位置する。
クライアントは、自らの私有地である角地に建てた賃貸集合住宅の一角を、一般にも開かれた場所にすることを望んでいた。個人から個人へのささやかな公共の試みは、それ自体が稀有だ。他者が集まって暮らす賃貸集合住宅のアプローチ部を、ひとつ広げて周辺住民も共有可能なプロトタイプとする。
近隣にある病院、福祉施設、保育園の利用者が休憩地点として立ち寄れるコモンスペースとして、またマンションの1階テナントの前庭としての利用は見込まれたが、それは潜在的な需要でしかなく、設計には変化や実験を許容する枠組みが求められた。その回答として、チーム内では「小説的」な空間に対しての「辞書的」な空間というキーワードが共有された。
オブジェクトディスコでは、1:空間の構成要素は、利用者の発見的な読み取りを促すように、単体では意味の希薄なオブジェクト群とすること、2:全体を統合する形式は、辞書の50音順のように読み方を限定しない秩序立てにより、公共性を獲得することが目指された。この辞書的な形式の成立には、オブジェクト群同士に定義された関係と、日用品・二次的な他者介入とオブジェクト群との偶発的な関係が等価に存在できること(僕らはこの等価な創発状態を「ディスコしている」と呼んでいる)が鍵となる。設計される関係の定義には自由連想を核としたチャンス・オペレーションの方法(1950年代の実験音楽に端を発する偶然を利用した制作手法)が試みられた。休憩するベンチ、敷地を守る車止め、通り抜けのための敷石に、環境を高質化する要素を付加し、コンテクストとの関係を編み込んでいった。
連想と編み込みの作業は、体験のあり方が一意に固定されてしまわないよう、明示的な平立面ではなく、角地の開いた方向にあたる敷地北西の上部から見下ろすアイソメ的視点で行った。
/////
オブジェクトディスコ /中野, 東京, 2016
プロジェクトチーム: 木内俊克, 砂山太一, 山田橋(山川陸, 添田いづみ, 橋本吉史)
[主要用途] 休憩施設 広場
[発注者] 個人
[施工] 建築: ダブルボックス 担当/和田重文 山本真吾, 鉄骨 スチールクリエイト 担当/中垣伸一, 猫の彫刻: 砂山太一, ワイヤー: 木内俊克 山田橋, 特殊塗装(砂利,砂利見切り)・特殊型枠(ボラード)・特殊左官(しじみ): 山田橋, 植栽: プロム 担当/大澤秀行 施主施工
[規模] 敷地面積 25.76㎡ [寸法] 最高高 2,100mm [構造] 鉄筋コンクリート造 鉄骨造 [工程] 設計期間 2015年11月~2016年5月 [施工期間] 2016年6月~2016年8月