東日本大震災により被災された岩手県大槌町の復興計画において、集会所の設計を行った。土木・街区計画の段階から住民との協議を積み重ねる機会を得、地域の価値観にもとづいた施設とすることを徹底した。大槌町の復興計画は、東京大学大学院社会基盤学専攻の中井佑教授統括の下、町内7地区それぞれに町職員、コーディネーター(計画やデザインの学識経験者)、コンサルタントのユニットが配置され、住民主体で検討が実施されてきた。小枕・伸松地区もその一地区という位置づけであった。
小枕地区集会所は、防災集団移転促進事業の一環として、高台移転する一団地(24戸)の中心に位置する広場に面して計画された、延べ床面積約130㎡の木造平屋建てだ。
住民協議の段階では、土木コンサルタントの補助として、ワークショップ用に街区の計画(宅地割・道路など)を住民が理解しやすい模型やスケッチに翻訳する作業から携わった。暮らし、災害時警戒の両方の意味において「海を常に意識できること」に計画の主軸を定めようという関係者の総意をベースに、集会所を海に正対して配置、海を臨む広場との関係を最大限重視した。また、住民協議の成果である団地内の生活動線としてのコモンスペースから、透明ポリカの風よけが設けられたエントランス、ストーブのある土間、玄関、集会室、テラス、広場というように、小さな「場」を少しずつ重ねながらつなげ、ゆるやかな広がりを生み出すことを意図した。
地区のつくられ方と一体化し、地域の価値観を反映した仕様設定を徹底することで、自然発生的に地域の環境の中で育まれたような質の実現を目指した。
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小枕地区集会所 /大槌, 岩手, 2018
設計: 東京建設コンサルタント、喜多裕事務所、木内建築計画事務所、田中雅之建築設計事務所
構造設計: 福山弘構造デザイン/福山弘 設備設計: テーテンス事務所/真野智敬
統括: 中井祐(東京大学教授) コーディネーター: 尾崎信(東京大学助教在任時、現愛媛大学講師) ファシリテーター: 海野芳幸、武下公美(地域まちづくり研究所)
[主要用途] 集会所
[規模]敷地面積:926.48㎡ 建築面積:169.74㎡ 延床面積:137.46㎡ 1階
[寸法]最高高さ 4.165m [構造]木造, ベタ基礎